どうしたって想起する『春と修羅』に不釣り合いな帯……でもそんな雑念は一瞬で飛び、この世界観に魅了されます。風と雷雨、そして篝。揺らめく赤と青の焔に、身を焼かれても構わないと「篝の修羅」に落ちていく春生。エロよりも官能的なピアッシング。幻の輝きと重力綱引きの宇宙観を反映した人間関係。「又三郎」に籠めた想い…。言葉のモチーフばかりか、「心象スケッチ」と敢えて副題した詩人の内界にも触れ、それを作者色に染め上げる手腕は見事です。なかなかない秀逸な賢治オマージュ。繊細かつ鋭敏な感性は、深淵を覗く危うさを鮮烈に描き出す。デビュー作の「egg or chicken?」は魂のニコイチ。俊才の片鱗ありです。
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やっぱり上手いんだなぁと思いましたね…。暴力やその他諸々読み手を選ぶだろうなと思いますし共感はしないんですけど、かなり惹かれました。何がすごいって、この全てが一点に収束するさまです。モチーフたる「春と修羅」もそうだし、ここまでの暴力描写や脇役たちもそう。全てが繋がり霧が晴れるようでした。こんなに鮮烈な恋の話はあまりないのでは。だからダークなわりに読後感もいいんですよね。宮沢賢治といえばひとつは自己犠牲だと思いますが、派生する自己破壊の物悲しさがホントにぴったり重なるなと溜息。ですがここは青白い炎あるいは閃光のような恋の話。BL的に救いのない話でもないですから、ちょっとした暴力等が読めそうならおすすめです。