1 『フールナイト』
人々が植物に変わることを選択する世界
厚い雲が光を遮る地球で酸素を得るため、人間は人を植物に変える「転花」という技術を開発しました。死期が近い人が施術を受けることができ、術後2年をかけて植物に変わります。そして、術後に1000万円の支援金が国からもらえるのです。生きる苦しみから逃れるために転花する人、苦しみながらも生き続ける人が描かれています。
複雑な家庭環境と絶望的な労働環境によって人生を諦めたトーシローは転花することを決意します。転花の申請に行くと窓口にいたのは、小学校の同級せいだったヨミコ1でした。ヨミコに考え直すように言われたときの、トーシローのセリフ2がいかに人生に絶望しているのかが伝わってきて胸が締め付けられます。
施術を受けたトーシローは、なぜか施術をきっかけに転花した植物の声が聞こえるようになり、ヨミコが働く転花院で働くことに。その力を活かしながら働く日々の中で、残された2年をどう豊かに生きていくのかもがき続けます。しかし、そんなトーシローの悩みなどかき消すかの様に転花した殺人鬼アイビー3の出現をきっかけに物語は大きく動き出します。
波紋は広がり、転花というシステムの根幹が徐々に明らかになっていきます。転花という仕組みを維持したい転花院、転花そのものを無くしたい政治家、それに便乗するデモ参加者など様々な思惑が飛び交い全く予想のできない展開が続きます。そして、特殊な世界観の中に、貧困・税制度など現実に通ずるテーマが散りばめられていて、リアリティが増しより作品に引き込まれます。
トーシローを始めとした転花という制度に、人生を狂わされる人々の人間ドラマがとても魅力的で、苦しくもありながら目が離せません。そして、どうしてトーシローは転花した植物の声が聞こえるのか、転花制度は誰が何のために作り出したものなのか、読めば読むほど謎が生まれてきて読む手が止まりません。11月にはNetflixでアニメの放送も控えた本作、是非この機会に手に取ってみてください。
食事シーンには、その世界の環境やキャラクターの性格・背景が色濃く表れます!何気なく描かれている食事シーンも、じっくり見てみると、物語やキャラクターの新たな一面が見えてくるかもしれません!今回のエスエフエフ コラムでは、そんな作中の食事シーンをピックアップしてご紹介!
❶固形の栄養食
工場勤務で14時間拘束、月給9万円。母の薬代などを稼ぐため、主人公は身を削るような節約を続けています。固形の栄養食を口にする姿からも、その切り詰めた生活ぶりが伝わってきます。片栗粉をそのまま舐めて、飢えをしのぐ日もあるのだとか。私も節約のため週3回はツナパックで生活しているので、その気持ちはよくわかります。
©安田佳澄 / 小学館
2 『999号室』
異形の国家に徹底的に管理された世界
国家によって徹底的に管理された世界で、労働に励む人々(?)の日々が描かれた本作。国家の強い思想、階級制度、何者かに徹底的に管理される労働環境など、挙げたらきりのない違和感あふれる世界。気味悪さを感じながらも、この癖になる独特の世界観にページをめくる手が止まりませんでした。
そんな世界で生きる主人公「逓信所飛脚行代員1871号」。何人もの人格が合体した者1、手が6本ある者2、一つ目の者3、など異形が住まう集合住宅に手紙を届ける仕事をしています。国家に厳しく管理されたこの世界で、手紙はこの異形達の大きな支えになっています。安心する者、心配する者、涙する者など異形達の感情が激しく揺れます。
印象的な世界観や見慣れない個性的な見た目を持つ異形達が目を引きます。その一方で、手紙を通して動く感情はとても美しく我々と変わりません。逓信所飛脚行代員1871号が届ける手紙が異形一人一人の悩みや不安に寄り添い、彼らの生きる希望となっています。
前述した通りかなり独特の世界観を持っている本作ですが、その中でも個人的に一番好きな設定が「手紙の賞味期限」です。賞味期限が切れた手紙からは感情が溢れ出してきてしまします。いつでも読み返せるはずの手紙ですが、そこに込められた感情は書いてから時間が経ってしまうと変わっている可能性があるからなのか?と勝手に解釈しています。
「逓信所飛脚行代員1871号」がこれから、どんな異形達と出会い、どんな気持ちが込められた手紙を届けるのかとても楽しみです。また、巻末にある南賀なん先生のあとがきにも是非目を通してほしいです。この作品ができた経緯や込められたメッセージが綴られており、あとがきを読んだ後に読み直すと1回目とは違った読み方ができると思います。最初は作りこまれた世界観を楽しみながら、あとがきを読んだ後は込められた意味を考えながら読んでみて欲しいです。
❷一般糧食�儀�
労働で得た“人民券”と交換できる「一般糧食�儀拭廖9駝韻砲箸辰討蓮�貴重な栄養源のひとつなのでしょう。主人公は一般糧食�儀燭髻⊃討靴じい痢箸箸函匹砲發竿咾箸靴栃�けています。そんなととへのやさしさからも、主人公の人となりが伝わってきます。
このととちゃんがかわいいんですよ…!私も、ととちゃんのために人民券を稼ぎたいです。
©南賀なん / 小学館
3 『ウスズミの果て』
人類が蹂躙され荒廃した近未来
突如発生した異形「断罪者」によって人類が蹂躙された世界。断罪者の出す瘴気は結晶病という病を引き起こし多くの人類の命が奪われました。
そんな荒廃した世界で一人生きる小夜。丑三技研機関の臨時調査員として、発見した死者の埋葬をしながら瘴気を浄化し、いるかもわからない生存者を探し続けます。死の間際ロボットに意識を移した人1、主人が死んでもなお帰りを待つアンドロイド2、シェルターを守る人工知能3などこの世界ならではの出会いと別れが描かれています。
登場するキャラクターもロボットやアンドロイドなど人工物が多く、見た目や表情からはあまり温度を感じません。考え方もとても合理的で感情的な判断はしません。しかし、人間との関わりの中でてくる少しだけ温度を感じるエピソードが心地よく、じんわりと心に染みます。
ゆったりと進む物語はこの世界での時間がとてもゆっくり動いているんだと感じさせてくれ、忙しない日々に少し余白をくれます。しかし、永遠に近い時間を独りで生き続ける小夜に思いを馳せると何とも言えない寂しさに襲われます。果たしてどこかに生存者はいるのか、小夜の行っている浄化に何かしらの意味を持つ日が来るのかとても気になります。
ストーリーも魅力的ですが、精巧な作画にも注目してほしいです。現代よりも少し近未来的な世界観が精密な絵で描かれていてとても引き込まれます。どことなく全体的に暗く描かれていて、生命力のない空虚さを感じます。それでも時折現れる景色がとても美しくて心を奪われてしまいます。
❸インスタント激辛カレー
シェルター施設内に保管されている食料の一つ「激辛カレー」。主人公が「辛…」と顔を手で仰ぐシーンに思わずほっこり。外で食べる料理は格別ですが、荒廃した世界で味わう料理は、また違う味わいに感じるのでしょうか?
©Haruo Iwamune
4 『天国大魔境』
塀に囲まれた天国と化け物がはびこる魔境
「ヒルコ」と呼ばれる化け物が蔓延り魔境と化した世界。そんな、荒廃した世界で生きる人々。その一方で、天国と呼ばれる塀に囲まれた美しく平和な世界で生きる子供たち。2つの世界が並行で描かれています。
魔境の物語は魔境を生き延びながら天国を目指すマル(下)と、マルの護衛として雇われたキルコ(上)の2人の旅路が中心となり描かれます。マルはなぜか触れるだけでヒルコを殺すことができたり、キルコも何か秘密がある様子で2人にもそれぞれ謎があり物語の鍵になってきます。
その一方で描かれる壁に囲まれた天国側はマルにそっくりなトキオ1、トキオと仲良しのミミヒメ2、不思議な絵を描くコナ3をはじめとした子供たちを中心に描かれています。どの子供も何かしらの特別な能力があります。成長に伴い能力が変容する子供や壁の外に興味が出てくる子供が現れ、天国内でも大きく物語が動きます。
天国を目指しているマルとキルコ、そして天国の外に興味を持つトキオ達。2つの物語の随所に、気になることが散りばめられていて、内側と外側の物語が、どのようにして交わっていくのか目が離せないです。そして、少しずつだけど着実に回収されていく伏線に驚くこと間違いなしです。ファンタジー好きだけでなく、ミステリー好きの方にも読んでほしい作品です。
散りばめられる伏線が大きな魅力でありながら、随所にこの世界に翻弄されながら生きる人々が描かれます。ヒルコによって人生を狂わされた母親や昼は畑を耕し夜は大麻で現実逃避をする集落など、極限の状況でなんとか生きる人々の営みもこの世界観を構成する大きな要素だと感じています。また、ヒルコとの戦闘も見どころです。化け物らしい予測不可能な攻撃で、一撃でも当たれば命に関わる緊張感を感じてみてください。
❹そこらへんに生えてた草の食べれそうなやつをいったん缶詰の水で煮て炒めたもの
貴重な缶詰の中身に、少しでも腹の足しになればと、そこらへんに生えていた草を加えて調理した一品。貴重な缶詰を使うことになり、マルも思わず「ついに食べるの!?」と少し興奮気味に。気になるお味は……本編で!
©Masakazu Ishiguro/講談社
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この記事を書いた書店員
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