小料理のどか屋 人情帖

もう武士に未練はない。一介の料理人として生きる心の深奥にしみわたる一椀、一膳が人のさだめを変えることもある。【全150ページ】

わたしはもはや武士ではありません。思うところあって刀を捨て、包丁を選びました。刀は人を殺めます。包丁も生あるものを切りますが、正しく成仏させれば、一皿一皿、一椀一椀の料理に変わります。その味が食べていただいた方の気持ちをほぐし、素材は生まれ変わって血となり肉となります。そして、ときにはそれが、人生の一椀になったりもするのです。【全153ページ】

天下一品の味を誇る豆腐屋の主が病で倒れた。この窮地にのどか屋の時吉と常連客は起死回生の策で立ち上がる。【全156ページ】

江戸を大火が襲う。でも命さえあればまたやり直せる！店を失った時吉とおちよは無料炊出屋台を引いて復興への一歩を踏み出す。【全153ページ】

暖簾を賭けた味くらべ。異形の料理人らが企むのどか屋潰しの危機！【全160ページ】

江戸城の将軍家斉からの依頼！隠密・安東の案内で料理人・時吉は江戸城へ。そこで秘密の会話を耳にしてしまい…【全153ページ】

とうてい信じられない世にも不思議な異変が起きてしまった！時をこえて伝えられる命のたれの秘密とは？【全149ページ】

大火で両親と店を失った若き料理人が時吉の弟子に。皆の温かい励ましに包まれ「初心の屋台」で街に出たが謎の事件に巻きこまれ…【全147ページ】

元侍の料理人時吉に病床の殿が最後の願い。あくまでも包丁人として…遠い国許で身罷られる前に、いま一度江戸の料理を食したいというのである。【全135ページ】

この粥を食せば、行く手に必ず望みが生まれる！大火に焼け出された人々に時吉とおちよの救け屋台が温かい椀を出していたが…【全136ページ】

侍を捨て料理人となった時吉とちよの「のどか屋」に包丁一本を晒に巻いた凄腕の料理人が舞い込んだ。小田原を出て二十年という。【全134ページ】

大火に逃げ惑う人々。だが江戸の町は負けない。のどか屋が焼け落ちても命さえ助かればやり直せる！と、赤子の泣き声。捨て子？【全131ページ】

大火で焼失したのどか屋の思いもよらぬ再建策―！辛い坂道で後ろから荷を押してくれるような料理屋の宿に訳ありの家族客が…【全140ページ】

旅籠付き小料理のどか屋に兄の形見の絵筆を胸にした娘と父母が宿をとった。同じ日、上州から船大工を名乗る五人組が投宿して…【全136ページ】

江戸で唯一の旅籠付き小料理のどか屋に同心が駆けこんだ。大川端に書き置きを残して、のどか屋の見習いが消えたというのである。【全131ページ】

結城紬の里に出現した、もう一つののどか屋！背後に訳ありの「大殿」【全134ページ】

女房子供を捨てて出奔した浮世絵版木彫りの名人。江戸に戻って目にしたのは、大工修業中の息子が遺した大火で焼け焦げた鉋…。【全132ページ】

夜中に宿の床を出た客、思い詰めた顔で大川へ。気づいた千吉が追う！【全129ページ】

皿を食わせるのかと、客が怒る老舗京料理屋。時吉に立て直せるか？【全132ページ】

せがれに成りすまして年寄から銭を騙し取る悪い奴は許せない！相談を受けた時吉らは……。【全131ページ】

九歳の千吉が大手柄！一茶ゆかりの地・流山で悪党の化けの皮を剥ぐ。【全127ページ】

のどか屋の看板猫が、江戸を護る猫地蔵に！意外、これも御利益？【全131ページ】

息子千吉が兄とも慕う修業先の兄弟子の身に思いがけぬ出来事が…【全126ページ】

京から江戸へ二つの風。凶暴な盗賊「嵐組」と、京都のどか屋の為助！【全128ページ】

師匠の長吉が奢侈の咎で、江戸十里四方所払いに。時吉は主なき長吉屋を護り、のどか屋は若き伜千吉に…。【全129ページ】

味比べで時吉と闘った、女料理人と童の小店に、地攻め屋の悪辣な脅迫！【全126ページ】

上野黒門町の紅葉屋。茄子紺の作務衣の千吉、新装の見世で花板に！【全127ページ】

のどか屋の千吉は十六歳。顔は幼いが料理は大人の味。惹かれる手伝い娘おように他所から急な縁談が…。迷った末に出した決意は？【全124ページ】

夏の誉れは若おかみ！　千吉の許嫁おようが、かわら版で大評判に…。【全124ページ】

刀を包丁に替えた時吉とおちよの夢が叶った。二代目の千吉が祝言！【全124ページ】

刀を包丁に持ち替えたとき時吉が禄を食んだ大和梨川藩の若き藩主が初めて江戸へ。折しも「ご案内の辰」なる賊による拐かしが。【全122ページ】

二人あわせて「江戸」となる江美と戸美は、のどか屋はじめ三軒の旅籠のかけもち手伝いに。折しも上方から…【全119ページ】

三代目を待つのどか屋にみちのく訛りの訳あり客。百姓と雖も二君に仕えず！【全123ページ】

あれも駄目これも駄目の天保の改革の締め付けの下、せめて家では名店の味を！【全124ページ】

料理の修行中に死んだ兄の遺志を継いで六年、故郷の潮来で見世を！【全119ページ】

人の情けの花が咲き、不思議な縁えにしで結ばれるのどか屋は心ほっこり。【全117ページ】

中山道の奈良井宿から十二歳の梅次郎が一人、江戸へ料理の修業に！【全115ページ】

料理人の腕くらべ再び。
二十年前には父時吉が、こたびは二代目千吉が。

江戸で指折の名店、三役格の旬屋のあるじ幾松と競う千吉。
腕くらべの結末は？
さらに幾松からの思いがけぬ申し出を受けた千吉は…。

かつて江戸の料理人による腕くらべがあった。通人の遊びとして年に一度行われていた。料理人を二人呼び、どちらの料理が勝るか判じて勝ったほうにほうびを与えるという通人らしい遊びだ。その後、料理人の数を増やし大がかりな腕くらべが……。もう二十年前の話だ。これに父の時吉が出て勝った。そして今、二代目の千吉に白羽の矢が立てられて……。

《本書登場の小料理》
・大根餅
大根おろしに細かく刻んだ干し海老を加え、片栗粉と塩を入れて火にかけ、粘り気が出るまで練る。これを広げ、こんがり焼き上がったら、食べやすい大きさに切り、醤油で食す。
（一口大に分けてもよい）【全112ページ】

信平は初陣の薬売り。
亡父への想いを胸に江戸の街を行く。

信平の父は時化にのまれ、江戸を見ることなく逝った。
信平を見守るのは父の親友。
懸命に薬売りに励むが、折しも捕物騒ぎが勃発！

日の本じゅう、津々浦々を旅する薬売りが久々にのどか屋に現れた。時を同じくして、黒四組が探索しているのは「上方訛り」の京から下ってきた悪党だという。なりは越中の薬売りだが、中身は上方からきた悪党どもを探し出すことはできるのか。「おいらたちの真似をするとは、許せねえっちゃ」と気概を示す越中の薬売りたちは果たして手柄を立てることができるか――。

＊本書登場の小料理
「焼き茄子」
焼きたての茄子は水につけないで皮をむく。
熱いので、指のほうを水につけて、手際よく。
むけたら、へたを切り落とし、箸で四つに割く。
それを器に盛り、だしが二、濃口醤油が一の割り醤油をかける。
おろし生姜を添え、糸がきの鰹節をふわりと載せれば出来上がり。【全113ページ】